ハリウッドで大スターになった日本人・早川雪洲(2)


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さてさて、自伝を読んでみましたらば面白いエピソードてんこ盛りで(マジで!)、
どれをご紹介しようか頭を悩ませてしまいましたが、
「赤い鉛筆」(1922年頃?)の撮影時に起きた
驚くべき出来事を取り上げてみたいと思います。
クライマックスシーン、支那の町が地震で全滅するシーンを撮っていた時の事です。


私と格闘する支那人の役は柔道のできる日本人で、それを三人雇い、
カメラも全部セットし、リハーサルもして、いよいよ本番ということになった。
本番の時には、私と支那人がパゴダ(仏塔)の下で格闘中、
そのパゴダが向こう側に倒れるし、こっちの方のビルディングも倒れることになっている。
格闘中発射するピストルの音ともに、大地震が起こって、
そこら辺のビルディングが全部倒れる。
重い石でできたパゴダも倒れるのだが、向こう側に倒れるのだから心配しないでやれ、
という監督の注文であった。


いよいよ本番という直前、昔パラマウントにいたときに知っていた
舞台美術監督の白髪のおじいさんが、あたりに気兼ねしながら、
物陰からそっと私を指で盛んに呼び寄せている。
行ってみると、耳の傍で小さな声で、
「雪洲、あのパゴダの下で絶対格闘するなよ。あのパゴダが向こう側に落ちるなんて
 とんでもない話だ。あれは僕が作ったんだ。ピストルを撃つと、鉄の棒が抜けて、
 あんたの頭の上にパゴダは落ちてくる。逃げないと殺されてしまうよ」と言う。
「ちょっと待てよ。監督はパゴダは向こうに落ちるんだから安心しろと言ったんだよ。
 変だねえ。君のいうのは確かなのか。」
「確かだよ。僕が作ったんだから間違いない。絶対やらない方がいいよ。」と言う。
しかしそのパゴダは三、四間もある高さだから、地震で鉄の棒を抜かれて
もしこちらに落ちてくるにしても、必ず何秒かの間がある。そこで私は
「よくわかった。ありがとう」と言って、向こうで見物している社長だの、
所長だの、保険会社の人なんかを、きっと睨みつけた。
「オーライ。本番!」という声がかかったので、
私と格闘する役の日本人三人を呼んで、わざと日本語で話しかけた。
「パゴダは向こうに落ちる事になっているけれども、
 どんな間違いがあってこっちに落ちるかもわからない。
 だから僕が『放せ』と言ったら、喧嘩の最中でもすぐに僕の手足を放して、
 向こう側に逃げろ。わかったね。決して手足を捕まえたままにしてはいけないぞ」
と言い含めておいた。こうなると命がけだ。格闘が始まっても、
私の目はパゴダがいつ倒れてくるかわからないので、
パゴダに吸いつけられたようになっている。
さてピストルの音がして、周りのビルディングが音立てて崩れ落ちてきた。
パゴダは、と見ると果たしてむーんとのしかかるように私の方に倒れてくる。
大声で「逃げろ!」と怒鳴って、大急ぎで逃げた。


幸いに、無事だった。一人は煉瓦が足に当たってちょっと負傷し、
私もどこか股の辺に飛んできた煉瓦が当たったけれども、そのくらいの傷で済んだ。
もう我慢出来ない。私はつかつかと社長達の前に行って、
「僕が死ななくて残念だろう。お気の毒さま。この通り生きているよ」
と皮肉を言ってやった。彼らはもう青くなって、がたがたしている。
その社長は、私を殺して二百万ドル儲けようと企んだわけなのである
(※雪洲には二百万ドルの生命保険がかけられていた)。
あの時は日本人排斥の盛んな時で、実に迫害を受けた。
そのどさくさまぎれに日本人の私など撮影中の事故死ということで殺したって平気だろう、
殺して二百万ドル取る、という謀略をめぐらしていたのが事実だ。


そしてこの事件が起こってから二週間ほど経った頃に
この社長主宰のパーティーが各スター、プロデューサーらを招いて行われたのですが、
その場で雪洲は突然立ち上がり、次のような演説を行ったそうです。


「僕は長らくここで、スタアとして皆さんのお世話になった。
 先日、一般人民投票によって、日本人を排斥すべきかどうか、
 土地法、移民法を通過さすべきかどうか、イエス・ノーの投票があった。
 あの時『イエスと投票しろ』と宣伝カーを繰り出したその中に
 僕のいる映画会社からも車が出ていたのを僕は知っているし、現に見た。
 そして僕の住んでいるこのハリウッドがイエスの投票をしたために、
 あるいはロスアンゼルス全部がイエスの投票をしたために、
 日本人にとってもっとも致命的な土地法案(日本人には土地を所有できない)は
 通過してしまった。
 『日本人を排斥する土地法を通過させろ』と
 僕の家の回りをメガホンで触れ歩いたあの叫び声は、今でも僕の耳の底に残っている。
 道を歩く日本人は、トマトをぶつけられたりで悲しい目に会った。
 それのみならず、撮影中に僕を殺そうとした事件が起きた。
 こういう空気の中で、僕はこれ以上一日も過ごすことはできない。
 今日限りハリウッドに決別する。幸いに契約はすでに済んでいる。
 色々お世話になったが、今日をかぎりお別れする」
と演説した。その時にはさすがに場内シーンと静まり返って、物音一つだにしなかった。
まもなくハリウッドから身を引いてニューヨークの舞台に立つようになったが、
その後「あなたはなぜハリウッドから足を洗ったのか」という質問を時々受けたが、
今まで口を濁して言わなかったけれど、真相は以上のごとく、
私にとってはハリウッドの秘話があったのである。


当時の日本人排斥の空気というものをまざまざと感じさせられるエピソードで、
その真っ只中で奮闘していた雪洲には本当に頭が下がる思いです。


他にも、「緑の館」で共演したオードリー・ヘップバーン
雪洲を喜ばせようと着物を着て撮影現場に現れた話や、
「戦場にかける橋」のロケ先での環境があまりに苛酷で
ノイローゼにかかる役者が続出した話、
エキストラ時代のミシェル・モルガン(フランスの大女優)に目を留めて
彼女のデビューに一役買った話など、面白いエピソードがてんこ盛りでした。
そしてハリウッド創成期の様子や
1920年頃の禁酒法時代のアメリカの様子などを知る上でも
非常に興味深い著書でありました、大変面白かったです!


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